2023年2月、パナソニックからLumix S5mark2が発売されました。
トピックはシリーズ初の像面位相差AFと動画性能向上、そして何よりダブルレンズセットで30万という衝撃の価格設定。
これまでのパナソニックはコントラストAFのみというのが他メーカーからの移行を躊躇する要因になっていましたが、この記事を執筆している2023年4月には既にたくさんのレビューが上がっていて、コンティニュアスAFの実力は各所で評価されています。
元々ムービーには歴史と定評のあるパナソニック、ハイブリッド機を模索しているスチルユーザーへの訴求力は非常に高くなり、これで晴れてLUMIXもスチルカメラとして堂々と他社からの移行対象になったものと思います。
自分ももちろん心を揺さぶりまくられました(笑
ということで今回乗り換えを検討するにあたってpanasonic S5m2を購入。
発売日に購入後、5年間使用してきたα7m3と画質・ノイズなど比較して決定しようと思います。
また画質テストについては比較対象にはならないと思いますが、ついでにAPS-C機のZV-E10も混ぜて行います。
目次
対象機種(およびレンズ)
- LUMIX S5ii(Panasonic 20-60mm F3.5-5.6)
- SONY α7iii(SONY G 24-105mm F4)
- SONY ZV-E10(SIGMA 18-50mm F2.8)
インターフェイス・液晶
主要機能のボタン数・ダイヤルの配置はだいたい同じ感じですね。
α7iiiからS5iiへ乗り換えてもさほど迷うことなく使えます。
S5iiのほうが若干背が高いので、少し余裕のあるボタンレイアウトになっています。
またS5iiで特徴的なのはフォーカス関連が独立したボタン・レバーになっている点。
レバーの質感はちょっとチープですが、これは便利だなと思います。
ボタン配置
α7iii世代のソニーのカメラはガジェット的というか無機質というか、デザイン的にボタンを設置しているだけでUXの配慮が乏しいと感じます。
(ソニーもα7Riv以降のフルサイズ機についてはグリップも含めてブラッシュアップされたので、その世代からは良くなっていると思います。)
S5iiはG9 PROあたりで刷新された、カメラらしいインターフェイスです。
ジョイスティックとメニューボタンにはクリック感をもたせて差別化したり、マルチホイールには段差をつけて指で判断しやすくしたりと、ファインダーを覗いたスチル撮影に配慮した造りになっています。
液晶・ファインダー
スペックは下記の通り。
液晶
α7iii | 921,600 ドット |
S5ii | 1,840,000ドット |
ファインダー
α7iii | 2,359,296 ドット |
S5ii | 2,360,000ドット |
液晶の見え方
背面液晶の解像度が倍になっていますが、室内で使用している分にはさほど差異を感じませんでした。
EVFについては、あとから説明する問題はありますがS5iiのほうが少し見やすい感じ。
このあたりは廉価グレードでは真っ先にコストカットされそうな箇所で、実際α7iiiではコストカットと酷評されていましたが、実のところそれほど不便を感じたことはありませんでした。
どちらも撮影に支障がない程度のスペックに落ち着いているのではないかという感じです。
タッチパネル操作
これは間違いなくS5m2のほうが便利。
ボタン・メニュー的に表示されている箇所はほぼタップ可能です。
動画再生時にシークバーが操作できる等、スマホ感覚で操作できます。
対してα7iiiはフォーカスエリア選択と動画再生くらいしかタッチ操作できなかったと思います。
逆になんでタッチパネル採用しているのか謎なくらい触れません。
マニュアルフォーカス
オールドレンズも試してみましたが、マニュアルフォーカスについてはS5iiのほうがピント山をつかみやすかったです。
EVFの見え方もそうですが、ピーキング表示のサポートと拡大表示がセンターに小窓で表示されるので、フレーミングを邪魔せずピント確認できるのでとても快適です。
ちなみにsonyはサードパーティではありますが、TECHARTからマニュアルレンズでAFできるマウントアダプターがあります。
オールドレンズを使うならこちらのほうが当然便利ですがたまに迷うこともあり、S5iiのマニュアルフォーカスと比べてもそこまでストレスになるものでもなかったです。
S5iiのEVF問題
S5iiのEVF・背面液晶には現状いくつかの問題があります。
Mモードでの撮影時、AFを駆動(シャッターボタン半押し)タイミングでEVF・背面液晶ともに絞りプレビューがキャンセルされる
AF-C使用時、EVFのリフレッシュレートが落ちる(これはファームver1.1で対応。AFCのライブビュー項目に「速度優先」が追加されました)
AF-Cについてはファームでフレームレート問題は対応されましたが、絞りプレビュー問題は解決されていません。
つまり、AF駆動している間は常に露出確認できない状況になります。
メニュー内に「常時プレビュー」という項目がありますが、これが選択されていても常時プレビューにならない。
これはさすがに欠陥レベルの問題ですね。
ファームで解消される可能性はありますが、動体撮影がメインの場合スペック以前に確認する必要があるでしょう。
スチル撮影環境
以下から3機種でのスチル撮影テストになります。
撮影環境は以下の通り。
- 天井ライト(LED)1灯のみの物撮り。
- 全て設定はスタンダードでパラメータはデフォルト。
- AWBはオート
- RAWデータをlightroomで確認。
解像感(ディテール)・色乗り(色再現度)
まず解像感のテストです。
解像感(ディテール)
S5iiとα7iiiは同じフルサイズ・2400万画素なのであまり差はないが、ローパスフィルターレスの分の差が出ている印象ですね。
ZV-E10はセンサーサイズ・画素数分、順当にが劣ります。
ただ等倍鑑賞しての比較なので、ネットに掲載したりスマホで鑑賞するなど実鑑賞想定ならば正直どれも同じようなもの。
何より解像感についてはカメラよりレンズのファクターのほうが大きいでしょう。
一応似たようなグレード(24-105mmはGレンズなので若干上か)のレンズで比較しましたが、あくまで「傾向」程度に参考にしていただくのが良いと思います。
色乗り(色再現度)
パナソニックユーザーが良く言う「パナは色が良い」という評判なので、実は一番気になるところです。
目視で対象物を見たものと比較して判定しました。
S5iii >ZV-E10 >= α7iii
- デフォルト設定において、S5iiは目視の対象物の色再現がとても忠実に感じた。
- 傾向としてSONY 機2種は露出が0.5段くらいハイキーに。
- S5IIは若干アンダー寄り。
- それを踏まえてもSONYは色は浅め。
- レンズを交換して撮り比べたら若干変わったが、傾向は同じだった。
画像処理エンジンの世代、若しくはセンサーフォーマットによるチューニングの違いなのか、同じソニーでもα7iiiとZV-E10では色乗りに違いが出ました。
α7iiiは浅め、ZV-E10は深めになりました。
AWBかまたはスタンダードのプリセットのチューニングの違いによるものだろうか、SONYの2機種は露出高めでホワイトバランスが若干黄色に寄ってる感じですね。
対してS5iiはそのまま撮って無調整でも素直に色を再現している印象です。(lightroomで開いているのでそちらのプリセットの可能性もあり)
これが所謂「パナは色が良い」の正体かも知れません。
ただ色についてはカラースタイル設定かRAW現像時の色温度・露出の調整できるので、データ上で破綻していなければ正直アドバンテージにはならないと思いますが、インスタントに記憶色の色再現ができることは評価できます。
ノイズ
ISO800〜6400までで比較してみました。
結果
S5ii > α7 iii > ZV-E10
S5iiと比較すると、
- α7iiiは0.75段差
- ZV-E10は1.5段分差
くらいでしょうか。
S5iiとα7iiiでは粒状感は変わらないが、S5IIはニセ色の処理でうまくまとめている印象です。
今回テストはしていませんがISO12800以降では、デュアルネイティブISOによる差が顕著に現れてくるのかも知れません。
手ブレ補正
先代のs5からブラッシュアップされたと言う手ブレ補正の効果をテストしてみました。
シャッタースピード1/20で3枚撮影し、一番良いものをピックアップして比較しました。
尚、手ブレ補正の設定については下記のとおりです。
S5ii | ボディ内手ブレ補正 |
α7iii | レンズ内手ブレ補正 |
ZV-E10 | アクティブ手ブレ補正 |
結果
S5ii > =α7 iii > =ZV-E10
ボディのみの補正効果だけでもS5iiはかなり良いです。
α7iiiは全体を見ると良いのですが、拡大すると若干ブレを確認できます。
逆にZV-E10については拡大すると悪くない気もするのですが、全体を見ると若干モヤっとしています。
これはセンサーサイズの影響なのか、それともアクティブ手ブレ補正の影響なのかちょっとわからないですね。
そもそもファインダーがなく3点支持ができないので、スチルの補正に不利なので仕方ないところです。(動画撮影時のアクティブ補正は効果が高いと感じています。)
追加検証
更に追加でS5iiとα7iiiについて数値化して比較してみました。
今度はシャッタースピード1/10でそれぞれ20枚撮影、しっかり合焦しているものを5点として点数を付けてみました。
合計点・平均点
S5ii | 合計点:66 平均点:3.3 |
α7iii | 合計点:56 平均点:2.8 |
合計点・平均点は約20%S5iiが優秀という結果でした。
この結果だけだと大したアドバンテージは感じませんね。
ただ、歩留まりという観点から見ると5ポイントを付けた写真の割合で差をつけています。
5ポイントの割合
α7iii | 15% |
s5ii | 35% |
なんというか、記事的には安心した丁度良い結果です(笑
シャッタースピード1/10で歩留まり3割以上って、フルサイズでは十分すごいと思います。
この結果から、ここでは「S5iiの手ブレ補正はα7iiiより20%〜40%効果が高い」と結論を出しておきます。
AF性能
S5ii最大のトピックである像面位相差AFですが、動画を含めた比較でないことと、そもそも自分は動体撮影する機会がほとんどないことから評価対象から外しました。
その前提で甘々な評価をするならば、AF-Cに関しては3機種とも同じくらい速いと感じました。
AF-SについてはパナソニックのコントラストAFでも全く問題なかったと認識しているので、AF性能という点では全て同列と考えて良いと思います。
強いて言うならばS5iiは像面位相差とコントラストのハイブリッドになっているようなので、どういうアルゴリズムになっているのかが気になりますね。
総評
スチル性能に限定すれば、「S5IIとα7iiiは僅差でS5iiのほうが良い」と感じました。
α7iiiはもはや旧機種なので当然と言えば当然の結果ですが、リリースから5年分のアドバンテージは感じられるかというと、それはないなというのが正直なところ。
その5年分は動画性能に振ったのでしょう。
ただ色再現の信頼性について(これは個人差を多分に含むところだとは思いますが)、自分はこの1点だけでもパナソニックを選ぶ価値はあると思います。
色の話はオカルトっぽい感じがしますが、自分の好きな色が手間を掛けずに得られるというのはアドバンテージになりえます。
フジフィルムなど色でファンを獲得している例もありますし、色で機種を選ぶというのも健全な選択だと思います。
α7ivと比較したら
尚、当然ながら今回の比較にα7ivは使用していません。
ノイズについては画素数が増えた分トレードオフで変わらない気もしますが、精細度や新エンジンによる色の扱いが変わっているかも知れないので「エントリー機」というくくりではα7ivが最良の選択肢の可能性もあります。
ただ同じエントリー機といってもボディの価格差が10万円以上の開きがあるので、同じ土俵に上げるにはちょっと無理がある気もします。
S5iiはα7iii対抗の製品
おそらくS5iiはマーケティング的にもターゲットはα7iii、ないしα7iiiからの乗り換えを意識しているのではないでしょうか。
例えばS5iiのモデル名を「S3」とかにして画素数を3000万画素クラスにしても良かったけど、α7ivの対抗馬にしても勝ち筋が見えなかったので、画素数と価格を落としてターゲットを変更したのではないかと。
この例えば的を射ているのかいないのか分かりませんが、S5iiはα7ivが事実上一つ上のグレードに上がってしまったため「α7iiiマーク2」「ポストα7iii」のポジションを狙ったプロダクトなのではないかと、そう邪推してみたりしています。
α7iiiは発売日に購入しましたが、確か家電量販店でのボディの価格は同じ24万円台だったかと記憶しています。
α7iiiの優秀さを再認識
何より今回のテストで一番感じたのは、α7iiiの優秀さ。
5年前の機種にもかかわらず最新機種のS5iiが大きなアドバンテージを見出だせないのはちょっと驚きです。
エントリーモデルの後継機に4年もかかったのは、ひょっとしたらソニー自身もこの価格・性能に苦しめられていたのかも知れません。
スチルメイン機としてα7iiiから乗り換え対象になるか
そして最後に課題の回収です。
果たしてS5iiはα7iiからの乗り換え対象となるのか?
結論から言うと「スチル機としてのアドバンテージはほぼなので好みによる」です。
ここで言う「好み」とは性能面を除外した操作感や色、メニュー構成やリアルタイムLUTなどに興味があるかなどです。
手ブレ補正効果については優秀ですが、補正を必要とする用途があるかになるのでこれも嗜好の範疇になると思います。
優秀すぎたα7iii
繰り返しになりますが、α7iiiは5年前の機種にもかかわらず優秀すぎて、スチル性能の性能だけ見る限りS5m2へ乗り換えるメリットはほとんどないでしょう。
逆に現状ファインダーに問題を抱えている点、αマウントはボディとレンズラインアップが豊富で機材のアップグレードに先があるという点から、むしろ乗り換えないほうが賢明だとも言えます。
もちろん動画性能に期待する方は別の話ですが、スチル機として見た場合には乗り換えの意義はほとんど感じません。
つまり、まだまだパナのLマウントカメラは発展途上なのでしょう。
なんかα7iiiが出た頃のソニーみたいですね…まるでパナがソニーの歴史をなぞっているかのように。
あとはレンズ資産との相談ですかね。
レンズ資産が少なく普通に写真が撮影できれば良いという方で、「カメラの調子が悪くなってきた」や「もう少し良い動画が撮りたい」などの要望がある場合なら乗り換えを検討しても良いと思います。
アドバンテージは少ないものの性能はほぼ同等ですから、少なくとも後悔することはないと思います。
Wレンズキットはどちらのレンズもよく写るし、そのレンズセットでもα7ivより安いのですから、ある意味年々機材が高くなるソニーと縁を切る好機とも言えるでしょう。
結論
さて自分はどうするか、という話ですが、ソニーを売却することにしました。
理由としては先に上げた「好み」と「Lマウントへの期待」ですね。
操作系がソニーと比べて好印象だったのと、素直な色が出てくると感じたのが決めてです。
レンズは数本ありますが現状24-105mm付けっぱなしなので、望遠側が少し寂しくなりますがなくてもどうということはないかなと。
あとは仮にここで乗り換えを辞めたとしたらやっぱりα7ivを買うことになるのですが、高額な上に正直価格に見合う満足感が得られるとは思えないのもあります。
もうお高いソニーと付き合うのに疲れたんですよ…
Lマウントを支える三本の矢
あとはLマウントには隠し玉、シグマのfoveonセンサーが控えています。
動画のパナソニック、高解像度のシグマ、伝統のライカという三本の矢を持ったLマウントとか想像するだけでワクワクしてしまいます。(実現すればよいですが…)
という訳で、
今回の記事が僕のような「写真はほどほどで良いんだよ」と考えている筆者の決断のお話でした。
残るも良し、去るも良し。
どちらの機種も、どちらのメーカーもアマチュアカメラマンの要求に十分に答えてくれるカメラだと思うので、どちらを選択しても後悔はないと思います。
以上、S5iiの購入やアップグレードを考えている方への一助となれば幸いです。
それでは。
余談
今回3機種の集合写真はPanasonic GX7 mark2にパナライカ12-60で撮影しましたがよく写りますね。
高いカメラ=悪条件でも綺麗に写るカメラなので、条件を整えられれば7年前のマイクロフォーサーズだって十分鑑賞に耐えられる写真がとれます。
カメラは趣味性の高いジャンルだから「必要十分」を言い出したらつまらない。
趣味性の高いジャンルなのに性能を言い出したら標準化・収束してしまう。
デジタル一眼が普及して約20年、その間淘汰され技術的な差異が縮まった今だからこそアマチュアは「性能」に傾倒せずカメラ選びできる時代なんじゃないでしょうか。
「軽い」「小さい」「カッコいい」「色がいい」「レンズがいい」どんな理由を付けて選んでも後悔はないでしょう。
「カメラ選びは自由だ!」
S5ii => α7iii > ZV-E10